「部屋」を通して、文化を編集するという試み
「部屋は、生き方が最も表れる場所かもしれない。」
TOKYOROOMS展は、そんな問いから始まりました。
本展の総合プロデューサーであり、
ソーシャルインテリア代表取締役の町野健と、
企画プロデューサー・久々野智小哲津(くくのちこてつ)氏。
二人の対話から見えてきたのは、単なるインテリア展示にとどまらない、
“文化を編集する”という新しい試みでした。

「いい家具」はある。あとは、届けるだけ
久々野智:
まず、この展覧会をやろうと思った原点から教えてください。
町野:
普段、家具の提案や販売に関わる中で、世の中には本当にいい家具がたくさんあると感じています。ただ、それが十分に知られていない。そこに課題意識がありました。
加えて、日本では「衣食住」のうち、インテリアだけがまだ十分に発展していないとも感じています。衣や食は世界でも評価されているのに、住の領域はまだ伸びしろがある状態。この状況を変えたいという思いがありました。
「部屋」という最小単位が生む、最大の表現
町野:
そこで考えたのが、「部屋」の単位です。日本独自の、いわば暮らしの最小単位である“6畳一間”。この制約の中で、自由に表現してもらおう。
もともと、いい家具はすでに世の中にたくさんありますし、実際に触れれば気に入っていただけるものも多い。ただ、それが欲しい人に届ききっていないのは、「伝え方」がまだ設計されていない部分があるからだと感じていました。だからこそ、世の中にしっかりとインパクトを残せる伝え方を考えたかったんです。
久々野智:
この発想、実は数年前から町野さんがおっしゃっていましたよね。いい家具をどう届けるか、その「伝え方」をずっと模索されていた。
町野:
そうですね。単に商品を並べるのではなく、伝え方そのものを設計する必要があると思っていました。
一つの空間を見せるだけではなく、それを複数並べることで、比較や発見が生まれる。結果として、来場者自身の「好き」や「違和感」が浮かび上がる設計にしています。

展覧会を「編集する」という発想
久々野智:
今回の特徴は、単に40の部屋があるだけではない点にあると感じています。
町野:
はい。僕は雑誌が好きで、今回の展覧会も「一冊の雑誌を創刊する」ような感覚で構成しています。記事単体が面白くても、編集を間違うと全体の面白さは損なわれてしまう。
そこで会場全体をいくつかの構成に分け、全体が一つの物語のように体験できる導線を設計しました。来場者が見る部屋による感情の起伏を感じながら回れるように設計しています。
久々野智:
まさに“編集思考”ですよね。コンテンツと体験、両方を設計している。
町野:
編集とは、つくる側と受け手、双方に価値を生む行為だと思っています。今回も、来場者にとっての経験価値と、参加するクリエイターや企業にとっての発信価値、その両方を成立させたいと考えました。
見どころを一つに定めない設計
久々野智:
今回、あえて特定の「見どころ」を一つに絞らない設計にしているのも特徴だと感じています。
町野:
そうですね。どの部屋も、それぞれの価値観や思想が反映された表現になっています。だからこそ、「これが正解」「これが一番」という見方ではなく、来場された方それぞれが自分なりの視点で楽しめるようにしています。
久々野智:
その前提で、いくつか“楽しみ方の一例”としてご紹介できればと思うのですが、町野さんから補足いただきながらお話ししてもいいですか?
町野:
ぜひお願いします。
久々野智:
まず一つ目は、落合陽一さんの部屋です。今回ご参加いただく中で、空間そのものが作品として成立している点が印象的ですね。
町野:
そうですね。会場の特性と偶然が重なって、非常に面白い形で実現しています。映像や光の要素が空間全体に広がる構成になっていて、最後の部屋として印象的な体験になると思います。
久々野智:
あの空間ならではの体験ですよね。
町野:
まさに“場と作品が噛み合った”事例だと思います。
久々野智:
一方で、まったく異なるアプローチとして、くっきー!さんの部屋も気になっています。
町野:
一言でいうと“くっきー!さんらしい”空間ですね。アートやエンターテインメントの要素が強く出た、かなり尖った表現になっています。
久々野智:
いわゆる“住空間”の枠を軽く越えてきますよね。
町野:
そうですね。ただ、その中にもご本人の考えがしっかりと表れていて、「こういう部屋の捉え方もあるのか」と感じてもらえると思います。
久々野智:
あと印象的だったのが、佐藤大樹さんの部屋です。かなり初期から具体的なイメージをお持ちでした。
町野:
はい。「INSIDE HEAD」というテーマのもと、ご自身の経験やチームへの想いを空間として表現されています。細部までしっかりディレクションされていて、非常に完成度の高い空間になっています。
久々野智:
ご自身でかなり作り込まれていましたよね。
町野:
そうですね。個性がしっかりと立ち上がっていると思います。
久々野智:
さらに今回は、展示だけでなく体験が広がっていく仕掛けもありますよね。
町野:
はい。例えば第四境界さんのお部屋では、展示をきっかけに別の企画へとつながる構造となっており、展覧会がより立体的な仕掛けになるきっかけになりました。
久々野智:
いくつか例を挙げましたが、どれか一つをおすすめするというより、こうした多様な表現を行き来しながら「自分はどこに惹かれるのか」を見つけていくこと自体が、この展覧会の楽しみ方だと思っています。
町野:
本当にその通りですね。どの部屋も、それぞれに思想やストーリーがあります。
久々野智:
はい。他のクリエイターや企業の部屋も含めて、本当に多様で魅力的な空間が揃っています。ぜひフラットな視点で楽しんでいただきたいです。

正解ではなく、「自分の感覚」に出会う場
町野:
ぜひ来場者様には、みなさまの自由な感覚で楽しんでほしいですね。「これが好き」「これは違う」といった主観で大丈夫。
整っている部屋が落ち着く人もいれば、そうでない人もいる。いろんな部屋を相対比較して違いに気づくこと自体が、この展覧会の価値だと思っています。
久々野智:
日本人は本来センスがいいと思うんです。ただ、それを実際に発揮するための選択肢やきっかけが、これまでは十分ではなかったのかもしれません。
だからこそ今回、40通りの部屋という形で、多様な価値観や暮らしの可能性に触れられる場をつくりました。これまでお手本とされてきた部屋のあり方だけでなく、既成概念にとらわれないロールモデルにも出会っていただきたい。
そして、「こういう生き方もありかもしれない」と感じてもらえたら嬉しいです。
「部屋」を通して、文化をひらく
町野:
この展覧会は、一言で言うと「部屋というテーマのもとに、多様なジャンルが交差する共創型のイベント」です。
インテリアの枠を超えて、人や文化がつながっていく。そうしたつながりが生まれる場になればと思っています。
TOKYOROOMS展は、単なる展示ではありません。
それは、「部屋」という最も身近な空間を通して、自分自身の価値観と向き合う体験であり、同時に新たな文化の可能性を提示する場でもあります。
40の部屋の中に、あなた自身の“答え”がきっと見つかるはずです。
プロフィール

町野 健 まちの けん
株式会社ソーシャルインテリア 代表取締役
上智大学大学院修了。日本ヒューレット・パッカードでコンサルタント、マクロミルにて経営企画、海外事業立ち上げを経て、2012年にキュレーションマガジン「Antenna(現:antenna*)」立ち上げのため、グライダーアソシエイツを創業。3年で500万ダウンロードを達成し、黒字化まで育て上げる。 その後、2016年にソーシャルインテリアを創業。2018年3月に家具のサブスクリプションサービスを開始。 事業立ち上げ、メディア、マーケティングが専門。

久々野智 小哲津 くくのち こてつ
ブランドプロデューサー / 事業家
商品やブランドや企業の魅力を高め、世の中に届ける仕事。 個人向けの海外ブランドの日本進出から、IT関連の事業、エンターテイメント事業など、経営してきた会社は多岐に渡り、合計7社を経営。その後、今日に至るまで、海外ブランド・国内の人・もの・企業・番組・イベント・タレント・テレビCM・広告などブランドのクリエイティブなど130のプロジェクトを担当する。現在も、多種多用な業界の15社前後の上場企業や、業界トップ企業の、ブランド顧問・アドバイザー・プロデューサーなどを務めている。
